「ライスゴンドウクジラ」という名前を聞いたことがありますか？名前が付けられてからわずか3年ほどなので、この名前を知らない人も多いのではないでしょうか。ライスゴンドウクジラは 以前は、マッコウクジラの亜種に分類されていましたが、2021年に米国海洋大気庁（National Oceanic and Atmospheric Administration, NOAA）の研究により、「ライスゴンドウクジラ」という新しい種として生まれ変わりました。

体長は約13メートル、体重はなんと27トンにもなるこのライスゴンドウクジラは、残念ながら、新しい名前が付けられてからわずか1年で 絶滅危惧種に分類されました。世界自然保護基金によると、ライスゴンドウクジラの成体の現在の個体数は26頭と推定されています。2010年に 発生した「ディープウォーター・ホライズン」原油流出事故が、ライスゴンドウクジラの個体数をこれほどまでに減らした原因だと専門家は見ています。

2010年4月20日、米メキシコ湾で、ディープウォーター・ホライズンという石油掘削施設が爆発する事故が発生しました。エンジンの負荷により 爆発が発生し、消火活動が行われたものの、爆発から36時間後に海に沈没し、掘削パイプが横倒しになり、大量の原油流出が 続きました。4月に発生した事故でしたが、原油が流出している穴を完全に塞いだのは9月19日で、約5ヶ月かかりました。その間、大量の原油が海に流出し、付近に生息する海洋生物は大きな被害を受けることになりました。

ライスゴンドウクジラもこの事故で被害を受けた海洋生物の一つです。ライスゴンドウクジラが生息するメキシコ湾は、まさにこの事故が発生した地域なので 特に被害が大きかったです。この当時は、ライスゴンドウクジラという名称が付けられる前だったので、正確な被害規模は不明ですが、専門家は、ディープウォーター ホライズン事故により、ライスゴンドウクジラの個体数の約22％が減少したと推定しています。

ライスゴンドウクジラは、世界自然保護基金により絶滅危惧IA類（CR）に指定されました。今後絶滅する可能性が高いことを意味しています。 NOAAは、ライスゴンドウクジラの絶滅を防ぐために、さまざまな取り組みを行っています。

ライスゴンドウクジラのような大型のクジラは、船舶と衝突する可能性が高いです。クジラは、呼吸をするために水面に上がらなければならないため 船舶と衝突してしまうのです。NOAAは、大型船舶がクジラと衝突しないように、船舶の速度制限、航路の変更などを 勧告しています。また、超音波で会話をするクジラたちのコミュニケーションを妨げる海洋騒音問題も指摘しています。海洋騒音問題が深刻化すると クジラたちのコミュニケーションが制限されるだけでなく、ストレスも引き起こされる可能性があり、解決が急務です。NOAAは、海洋哺乳類に影響を 与える人工的な騒音を評価するためのガイドラインを改訂しました。

さらに、危機に瀕している動物を救助したり、健康診断を行ったり、原因を研究したりするなどの取り組みも行っています。ライスゴンドウクジラを 含む海洋生物の危険性について、一般の人々に知らせ、教育する役割もNOAAが担っています。

わずか26頭しか残っていないライスゴンドウクジラ。その名前を長く守ることができれば幸いです。